付加金って何?
付加金というのは,労働者に対して支払わなければならない賃金等について,同一額を支払えと裁判所からいわれる金銭のことです。労働基準法114条に定められています。
労働基準法114条は,裁判所は,労働者の請求により,解雇予告手当,休業手当,時間外等割増賃金,年次有給休暇中の賃金を支払わない使用者に対し,使用者が労働基準法上支払うべき金額についての未払金のほか,同一額の付加金の支払を命じることができると定めています。
要するに,100万円の未払金があったら,さらに100万円の支払を命じることができる,ということです。
なぜこのような規定があるのかというと,未払いに対する制裁的な意味合いと,未払いを抑止する意味合いがあるといわれています。
どうして付加金という制度があるの?
ただし,労働基準法114条の定めは,「付加金の支払を命じることができる」ですから,付加金を命じるかどうかは裁判所の裁量であり,必ず付加金の支払まで命じられるわけではありません。
裁判例では,使用者による労働基準違反の態様,労働者の不利益の性質・内容と行った諸般の事情を考慮して支払義務の存否及び額を定めていることが多いと思われます。
換言すると,付加金は,未払いに対する制裁という意味合いが強いので,裁判所が付加金の支払いを命じるかどうかは,罰するべきかどうかという視点で検討されていると言えるでしょう。
例えば,残業代を支払うべきかどうかの判断が法的にギリギリのところであれば,会社に帰責性は小さいといえますから付加金はなし,あるいは低額になりますし,未払いに理由がないことが明らかであれば,付加金の支払いを命じることになります。
また,付加金は,訴訟を起こして確定判決を得る必要がありますが,労働審判では付加金の請求ができないと考える見解が有力であり,実務の運用でも否定説が採用されています。ですから,付加金の請求をしたいのであれば,訴訟をしなければならないということになります。
もっとも,付加金の請求には2年の期間制限があり,その期間が経過するのを止めるために,労働審判で付加金の請求を事実上することにより期間が経過することを止めることができるという運用がされています。
実は支払われることのない付加金・・・
ただ,実際に付加金が支払われることはそれほど多くありません。
理由は主に以下の2点です。
まず第一に,そもそも裁判では和解で解決することが多く,その場合には付加金は発生しません。そもそも付加金が命じられない場合です。
次に,付加金が命じられてもそれを合法的に支払わない方法もあります。
どういうことかというと,付加金は,口頭弁論終結時までに未払い賃金等が支払われれば消滅すると考えられているためです。
つまり,第一審で付加金の請求が全額認められた場合でも,会社が控訴して,口頭弁論集結前に未払い金の方を払ってしまえば,付加金は請求できなくなり,付加金が実際に支払われることはないといえるわけです。
そういう意味で,付加金は,実際的には,制裁という意味合いよりは,履行を強制する意味合いが強くなっているといえるかもしれませんね。