残業代の遅延損害金って何パーセントなの?

一般株式会社や有限会社等の営利目的法人の場合,一般的な債務に関しての遅延損害金は,賃金支払日の翌日から計算して年6パーセントです。非営利目的法人であれば,年5パーセントです。この差は,使用者が法律上の「商人」に当たるかどうかによって生じています。商人であれば商法が適用され,年6パーセントになるのですが,商人でなければ民法所定の年5パーセントとなるのです。

ですから,残業代の遅延損害金についても一般的には6パーセントで計算することが多いでしょう。

ところが,退職後の期間の遅延損害金については,賃金の支払の確保等に関する法律(以下「賃確法」といいます。)6条1項,賃確法施行令1条によって,年14.6パーセントという高い利率が定められています。そうなると,残業代の遅延損害金は14.6%ということになりそうです。

しかし,これには厚生労働省令で定める例外がありますので,解説していきます。

賃確法6条1項の例外とは

賃確法6条2項,賃確法施行規則6条4号によって,支払いを遅滞している賃金の全部または一部の存否に関し,合理的な理由により,裁判所または労働委員会で争っている場合には,年14.6パーセントの利率は適用されないとされています。

裁判外であれば遅延損害金を請求しないのが一般的な実務だと思われますし,訴訟手続においてもあまりの年14.6パーセントの遅延損害金の適用の有無が争点になることは多くありません。

裁判所が労働部に配属されたばかりの裁判官に対して作成した資料を本にしたと言われる「労働事件審理ノート」という使い勝手の良い本がありますが(あくまで法律家にとってですが。),そこでも「退職後に時間外手当を請求する原告は,最終賃金支払期日の翌日から商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金を請求する例が多い。退職日の翌日から,前述の賃金の支払の確保等に関する法律所定の遅延損害金を請求する事例もある。」と記載されており,年14.6パーセントの遅延損害金を請求することはあまりないというような書き方をされています。

残業代請求においては,通常は裁判所が積極的に和解を提案してきます。その場合には遅延損害金は考慮しないことが多いです。そうすると,遅延損害金の利率が何パーセントなのかはあまり結論に影響しないことも多いといえそうです。ちなみに,裁判所は残業代請求に関してかなり強く和解をするように求めてきます。残業代請求事件は争点は比較的分かりやすいのですが,判決を書くとなるとかなり細かい数字まで検討しなければならず手間がかかるというのも一因でしょう。

一方で,和解できずに判決まで行く場合には「合理的な理由により,裁判所・・・で争っている場合」に該当する場合が大半だからだと思われます。裁判例においても,上記の「合理的な理由」はかなり緩やかに適用されています。

以上のような理由で,年14.6パーセントの遅延損害金が請求できるという場面の方がむしろ少ないといえそうです。

結論としては,未払残業代の遅延損害金は,理論上は14.6%で計算する余地があるが,実務的には6%で考えておくということになるでしょう。