1 トラックドライバーの残業代未払いが多い事情

様々な職種の中でも、トラックドライバー等運送業に携わる方からの残業代未払いのご相談は多いです。

長距離運転に伴う長時間労働や、待機時間を含めた長時間の拘束を余儀なくされることが多い反面、会社からその分の時間外手当が十分に払われていないケースが多く見受けられます。また、就業時間が深夜から早朝に渡ることも多いですが、22時から朝5時までの深夜労働に対して支払われるべき割増賃金がきちんと払われていないケースも多いです。

残業代請求に対する会社からの反論としては、「長距離手当の中に残業代が含まれている」とか、「歩合制を取っているので残業代は発生しない」とか、「待機時間は休憩時間だ」というものがよく聞かれます。

2 手当の中に残業代が含まれているという会社の主張は通る?

トラックドライバーの方の給与は、基本給が低めに抑えられ、代わりに様々な名目の手当が支給されていることが多いです。例えば、「長距離手当」「無事故手当」のようなものです。

しかし、例えば会社が「長距離手当の中に残業代が含まれているので、未払い残業代はない。」と言ってきた場合でも、会社の言う手当が残業代の支払として有効とは限りません。毎月固定の金額で払われる残業代のことを「固定残業代」や「みなし残業代」と言いますが、これらが残業代の支払いとして有効になるには、いくつかの要件を満たす必要があるのです。

詳しくは、「『固定残業代を払っているのでこれ以上残業代は出さない』と会社から言われたら?」を読んでいただきたいのですが、①就業規則等による周知と,基本給と明確に区別した固定残業代の規定があること、②手当が時間外労働に対する割増賃金の対価という趣旨で支払われていること,③固定の残業時間を超過した分が支払われていること、という要件を満たしてはじめて、固定額の手当が残業代の支払いとして認められるのです。

ですので、まずは就業規則(賃金規程)や雇用契約書等を見返して,固定残業代が残業代の支払として有効となる要件を満たしているか,確認する必要があります。

3 待機時間も労働時間になる?

トラックの運送業務中,ドライバーの方は,荷物の積み下ろし先で,トラックを止めて,積み下ろし作業の間に待機することがあります。また,次の荷物の積み下ろし先での時間が決まっていて、その時間までの待機時間が発生することもあります。

このような待機時間(『手待ち時間』とも言います。)について,「休憩」という扱いにして、労働時間に含めない会社が多いのですが、待機時間は「労働時間」には当たらないのでしょうか。

待機時間に労働時間性が認められるかについて、最高裁は、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」であるとし,休憩時間と言えるかどうかについては,「使用者は、休憩時間中、労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足りるものと解される」との見解を示しています。

休憩時間と言えるかは,業務からの解放があるかどうかがポイントとなり,例えば,待機中に業務を命じられれば対応しなければならないとか,トラックから離れず待機するよう命じられているような場合には,自由に休憩時間を利用できる状態ではないので,休憩時間には当たらないと解されます。

4 歩合制でも残業代は請求できる?

トラックドライバーの方の給与は,「売上げの〇%」というような歩合制が取り入れられている場合がよくあります。では,会社から,「歩合給を払っているので残業代は出さない」と言われた場合,そのような会社の主張は認められるでしょうか。

まず,労働基準法第27条において,「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」と規定されており,給与の最低保障のない完全歩合制を取ることは違法となります。

したがって,「固定給+歩合給」という給与の定め方をするのが通常です。

そして,歩合給は売上や出来高等の成績に応じて支払われる報酬であって,時間外労働に対する割増賃金の対価ではありません。したがって,歩合給を払っているから残業代は出さないという会社の主張は認められません。

歩合給の残業代(割増賃金)については,下記計算方法のとおり,固定給の残業代と計算方法が異なるため,それぞれ分けて計算する必要があります。

〈歩合給の割増賃金計算〉

歩合給の額を総労働時間(※所定労働時間ではなく,実際の労働時間)で割って1時間あたりの歩合給を計算し,「1時間あたりの歩合給×0.25(※1.25ではないのは,時間当たり賃金、すなわち1.0に該当する部分は、既に基礎となった賃金総額に含まれているからです。)×残業時間」という計算をします。

例:ある月の歩合給が18万円,総労働時間が180時間(うち残業時間が18時間)であった場合

180,000円÷180時間=1,000円・・・1時間あたりの歩合給(歩合給÷総労働時間)

1,000円×0.25×18時間=4,500円・・・歩合給の割増賃金額

5 トラックドライバーの残業代請求の証拠は?

トラックドライバーの方の残業代を算定するにあたって、労働時間特定のための証拠としては、タイムカード、タコメーター(タコグラフ)、日報などがあります。

タイムカードは客観的に労働時間を証明することができます。タコメーターはトラックが動いている時間を客観的に証明できますが、トラックが動いていない間の事務作業等の労働時間を特定できない場合があります。タイムカードやタコメーターがない場合、日報により労働時間を特定します。また、タコメーターでは特定できない事務作業等の労働時間を日報により補完的に証明できる場合があります。

6 トラックドライバーの方は是非ご相談を。

弁護士法人エースでは、これまで、数多くのトラックドライバーの方の残業代請求事件を取り扱っており、証拠収集からお手伝いし、交渉や裁判を通じて上述した「固定残業代」「待機時間」「歩合制」等に関する会社からの主張を撥ねつけて、残業代を獲得しております。会社から正当な残業代が支払われているか不安な方は、ぜひ一度ご相談ください。